【紹介・解説】『ある男』夫の戸籍と過去をめぐるヒューマンミステリー

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今回は2022年製作の日本映画『ある男』を紹介いたします!
まめキネマ独自の視点から深掘り解説していきますので、最後までお付き合いください!

目次

キャスト・スタッフ・情報

(C)2022「ある男」製作委員会

<あらすじ・ジャンル>
夫を不慮の事故で亡くした妻が、夫の戸籍や名前が別の人物のものだったことに気づき、真実を追い求める姿を描いたヒューマンミステリー。

出演:妻夫木聡、安藤サクラ、窪田正孝
監督:石川慶 原作:平野啓一郎
2022年11月18日(金)公開 / 上映時間:121分 / 製作:2022年(日本) / 配給:松竹

感想・あらすじ

日本映画史に残る傑作

本作は芥川賞作家・平野啓一郎さんの同名ベストセラー小説を、『蜜蜂と遠雷』『愚行録』の石川慶監督がメガフォンを取り映画化した衝撃作です。

第79回ヴェネツィア国際映画祭のオリゾンティ・コンペティション部門に正式出品されたり、第46回日本アカデミー賞で最優秀作品賞、最優秀主演男優賞を含む最多計8部門に輝くなど、非常に評価の高い作品でして、間違いなく日本映画史に残る傑作のひとつになった作品です。

ミステリー、社会問題、そして実存を巡る哲学的な問いまでも含むアート作品でありながら、それらを大きなメロドラマが包み込むという構造が実に見事でした。

現行日本映画の最高到達点と言って過言ではない、素晴らしい作品です。

はい、でそんな本作『ある男』はどんな話かというと、夫を不慮の事故で亡くした妻が、夫の戸籍や名前が別の人物のものだったことに気づき、真実を追い求める姿を描いたヒューマンミステリーです。

(C)2022「ある男」製作委員会

夫の戸籍の謎

まずは冒頭、安藤サクラさん扮する里枝と、窪田正孝さん扮する大祐との出会いのシーンから物語が始まります。

里枝さんは、離婚し横浜から宮崎の実家に帰ってきたばかりのシングルマザーでして、実家の文房具店を手伝いながら日々を過ごしているんですね。そんな中、客として訪れた大祐と出会い2人は恋に落ちます。

大祐は伊香保温泉で老舗旅館を営む一家の次男坊だったのですが、とある事情により宮崎に移住しまして、現在は林業に従事しながらひとり孤独に暮らしていたんですね。

(C)2022「ある男」製作委員会

で、それから月日は流れ、その間二人は結婚し、長女にも恵まれ、4人家族で仲睦まじく暮らしていたのですが、ある日大祐は仕事中に不慮の事故で命を落としてしまうんですよ。

悲しみに沈む中、法要が行われ、大祐の兄が訪れたことがきっかけとなり、夫が実は大祐という名前ではなく、戸籍や過去も含め別人だったことが判明します。

里枝さんは弁護士の城戸に夫の身元調査を依頼するのですが、そこから思わぬ過去が明かされていくのでした…

果たして驚愕の真相とはいかに!?
というのが本作のおおまかなあらすじです。

(C)2022「ある男」製作委員会

見どころ・注目ポイント

社会派エンターテイメント

はい、でそんな本作『ある男』の見どころは社会派エンターテイメントとしての側面です。

本作は亡くなった夫の戸籍や生い立ちをめぐるミステリーなのですが、その謎を追いかける中で差別やヘイトスピーチなどのあらゆる社会問題や、大きな愛のドラマが立ち上がってくるという構造がとにかく絶品なんですよ。

石川慶監督はインタビューで「『砂の器』あたりの作品をイメージした」と発言しているのですが、まさに松本清張作品を思わせる重厚感たっぷりの社会派エンターテイメントに仕上がっていました。

「アイデンティティの揺らぎ」というテーマ

そして何より注目して頂きたいポイントとしては「アイデンティティの揺らぎ」というテーマです。

劇中、妻夫木聡さん扮する弁護士が夫の身元調査をするなかで、“自分は一体何者なのか”というアイデンティティの揺らぎに直面していくのですが、本作は存在を巡る哲学的な問いを投げかける作品なんですよ。

見ている間中、個人を規定するものは、名前や戸籍、生い立ちや境遇、それとも大切な人と過ごした時間なのか?と言ったあらゆる考えが浮かぶんですね。

まさに見終わった後で、この社会や世界の見え方が変わるような他では得難い作品でした。

ちなみに原作者の平野啓一郎さんは、「分人主義」言う、“一人の人間のなかには、対峙する相手に応じて何人もの「自分」が存在する”という考え方を提唱していまして、本作は一貫してそのモチーフに貫かれた作品でした。

是非原作も併せて読んでいただくことをお薦めいたします。

(C)2022「ある男」製作委員会

俳優達の演技

あと特筆すべきポイントとしては、日本を代表する手練れの俳優たちによる絶品の演技です。

妻夫木聡さんと柄本明さんとの世紀の演技バトルや、何があっても夫を信じ続けようとする安藤サクラさんの凛とした佇まいなど見どころ満載なのですが、特に二面性のある役柄を見事に体現した窪田正孝さんの演技は驚異的でした。

と言うわけでですね、その他にもアスペクト比1.66対1というヨーロピアン・ビスタサイズの狭い画角を活かした独特の人物配置や、本作のキーとなるルネ・マグリットの『複製禁止』という絵画にも注目して、この日本映画史に残る傑作ミステリーを是非ご覧になってみてください!

(C)2022「ある男」製作委員会

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