声優問題、CGはどうだったか?『THE FIRST SLAM DUNK』感想・レビュー(ネタバレあり)

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© I.T.PLANNING,INC.© 2022 THE FIRST SLAM DUNK Film Partners

公開前の不安要素

声優交代や、プロモーションでの情報出し渋りなど、度重なる非難を浴びた本作。リアルタイムで何度も読み返し、アニメシリーズにも思い入れがある筆者からしても、正直不安でしかなかった。事前の不安要素をまとめると以下の通り。

①CGが井上雄彦さんの作画とマッチしていないのでは?
②重厚なドラマを2時間の劇映画に落とし込むことができるのか?
③監督未経験の井上雄彦さんに監督をさせて大丈夫か?
④キャラクターと声が合っていないのでは?

結論としては全部、杞憂だった。

それぞれの不安要素は全く問題なく、むしろそれらの要素がプラスに働き、本作をとてつもない傑作にしているのだ。本作を傑作と信じきれなかった点に関しては、陵南戦の桜木と小暮を不安要素とみなし、その見誤り故に試合に負けた田岡監督ばりに、反省している。

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CGが井上雄彦さんの作画とマッチしていないのでは?

まずは①の「CGが井上雄彦さんの作画とマッチしていないのでは?」という点に関しては、基本的にCGではあるものの、それに手書と2Dの画がプラスされているため、むしろアニメ版より原作に近い印象を受ける。全体的に原作漫画が動き出しているような感動を覚えた。

さらにCGによる立体化により、本物の試合を観戦しているような臨場感を味わえるのだ。これにより、河田のデカさや、ゾーンプレスの絶望感を追体験することもできる。

井上雄彦は、アニメ版をあまり気に入ってなかったとのことだが、彼がやりたかったことは、つまり“本物の試合の臨場感”ではないだろうか。それを実現するためにCGはマストだったように思う。

重厚なドラマを2時間の劇映画に落とし込むことができるのか?

②の「重厚なドラマを2時間の劇映画に落とし込むことができるのか?」という点に関しては、宮城リョータを主役に据えることで、この問題をクリアーしている。宮城リョーターの喪失と再生という話を軸に描くことで、ドラマを成り立たせているのだ。

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この軸がしっかりしているため、余計なシーンを省くことができ、2時間の尺に落とし込むことができる。また、それにより、今まで慣れ親しんで来た、原作のセリフや行動が違った意味を持つ。例えばゾーンプレスを突破するところでは、兄の高い壁や喪失を乗り越えるという意味が付加されるし、チームを鼓舞する宮城の姿に彼の人間としての成長を見ることができるのだ。まさに、これぞ「新たな視点で描いたスラムダンク」と言えよう。

そしてもう一つ、宮城を主役にすることで際立つのが、本作のニヒリズムというテーマだ。本作には絶望し、どうせやっても無駄だ、意味がないと、ニヒリズムに陥るキャラクターが多数登場するが、その代表的な人物が赤木の先輩であり、三井。そして映画版では宮城のダークサイドが掘り下げられる。この宮城がニヒリズムに陥りそうになる姿を描くからこそ、スラムダンクの本質である「決して諦めない」「今を生きる」という、本質的なテーマがより浮かび上がるのだ。

監督未経験の井上雄彦に監督をさせて大丈夫か?

③の「監督未経験の井上雄彦に監督をさせて大丈夫か?」ということについては、井上雄彦はそもそもドラマを作る天才であり、全くその心配はなかった。むしろ、他の監督がやっていたら、スラムダンクの本質は描けなかっただろう。そして、この「今を生きる」という本質を描くためにこそ、今の声優、今の音楽、最新の映像技術に切り替えたのだと筆者は解釈する。そうじゃなかったら桜木の「親父の栄光時代はいつだよ、全日本のときか?俺は今なんだよ!!」は嘘になってしまうのだ。


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キャラクターと声が合っていないのでは?

そしてラストの④「キャラクターと声が合っていないのでは?」に関しては正直グレー。

宮城の声に関しては、主役としての華があったので正解だと言えるし、赤木、流川、三井に関しては声の方向性がアニメ版と同じだったので、すぐに馴染んだ。が、問題は桜木だ。

189cmの大男なのだから、声が低いのは当然だし、リアリティを求めるなら断然映画版だが、頭ではそう理解していても、やっぱり「ヤマオーはオレが倒す!! by天才・桜木!!」は草尾毅さんの声で聞きたかったよーーーーーーーーーーーー!!!!というのが本音。ただし、すべての声優さんたちが、ベストな仕事をしていたのは間違いない。

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ことほど左様に、本作は興収的にも内容的にも、上映前の下馬評を覆す圧倒的な成功を納めたと言えよう。また圧倒的に負けると言われていた湘北が、下馬評を覆し山王を打ち負かしたという構図が、本作と重なるのもすごい。まさに新参も古参も納得させてしまう、文句のない傑作だった。

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