【感想・レビュー】『ブラック・スワン』後世に語り継ぐべき傑作

本作は過酷なバレエの世界を舞台に、プリマを目指す女性の狂気と執念を描いた2010年製作のサスペンススリラー。

公開当時劇場で鑑賞し大きな衝撃を受けたのだが、改めて見事な作品だと思った。主人公に訪れる精神と肉体の変容、社会通念を超えた信念、そしてラストの命がけの跳躍など、ダーレン・アロノフスキー監督の癖の強い作家性がエンターテイメントという形で結実した奇跡のような作品なのだ。

それに加え、ナタリー・ポートマンの演技が素晴らしい。それまでの清純なイメージを逆手に取ったキャスティングの妙もあるのだが、清純と不純、冷静と情熱、善と悪など、様々な二項対立を見事に体現。何よりバレエシーンは圧巻だった。これはアカデミー賞で主演女優賞を受賞したことも頷ける。

また芸術と狂気というテーマも見どころの一つだ。主人公は黒鳥を踊るために自分自身の影と対峙していくことになるのだが、そこには芸術や美のためならいかなる犠牲も厭わないという考え方が存在する。誰しもが一度や二度はこの考えに取り憑かれたことがあるのではないか。それゆえ不思議と主人公に深く感情移入してしまうのだ。ラストのカタルシスは他では味わえない素晴らしいものだった。

後世に語り継いでいくべき傑作と言えよう。