【感想・レビュー】『市子』善悪で括ることのできない濃密なドラマ

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本作はある社会問題を背景に、プロポーズを受けた翌日に突如失踪した女性の素性をめぐる2023年製作のヒューマンミステリー。

まずは杉咲花さんの演技が素晴らしい。中学生から20代後半までの姿を違和感なく演じきり、主人公の心の変容を見事に表現。大きな絶望の中で、ふと垣間見る“喜び”や“幸福”が胸に迫る。

第47回日本アカデミー賞で優秀主演女優賞に選出されたのだが、正直最優秀主演女優賞は彼女が受賞すべきだったと思う。それぐらい彼女にとって現時点での最高の演技だった。

対する彼氏役の若葉竜也さんの佇まいも抜群だ。基本的にいつもの受動的な飄々とした雰囲気を醸しつつ、本作では是が非でも彼女を見つけようとする能動性が素晴らしかった。

観客は若葉竜也さん扮する彼氏の視点を通し、彼女の過去を追いかけていくので、影の立役者は間違いなく若葉さんと言えるだろう。そもそも彼の動機に感情移入できなければ、物語に入り込み辛くなってしまうのだ。

とにもかくにも本作は、ある社会問題をめぐる問題提起を含んだ社会派ドラマの面がありながら、ヒューマンドラマ絶品だった。2回目を見ると序盤からすでに目頭が熱くなる。

人には社会の倫理や正義で割り切れない幸福や喜びがあるし、それは誰にも奪うことができない。善悪で括ることのできない、人間の感情の機微を描くのが映画の役割なのだと、再認識した。

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