【感想・レビュー】『哀れなるものたち』エマ・ストーンのハングリーさに脱帽

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第80回ベネチア国際映画祭コンペティション部門で金獅子賞を受賞し、第96回アカデミー賞では作品賞、監督賞、主演女優賞、助演男優賞、脚色賞ほか計11部門にノミネートされるなど、今話題沸騰中のヨルゴス・ランティモス最新作「哀れなるものたち」。公開から1ヶ月以上が過ぎてやっと観にいくことができた。水曜日で安く観られるという影響もあったのかもしれないが客席はほぼ満席だった。客層は映画好きそうな中高年から、流行りに敏感な若者層まで幅広かったのだが、やはりエマ・ストーンとヨルゴス・ランティモスのタッグが醸し出す特別な雰囲気というのに引き寄せられているように感じる。

ヨルゴス・ランティモスはいつも通りシュールでブラックで不条理なのだが、今回は前作「女王陛下のお気に入り」で初タッグを組んだエマ・ストーンの演技が特にすごかった。正直30代半ばのオスカー女優が“ここまでするのか!”と開いた口が塞がらなかった。演技者として持てる全ての技術をさらけ出していることは当然として、なんといっても脱ぎっぷりの良いこと。若手の女優が爪痕を残そうと、こういう役を引き受けるのはよくあることだが、エマ・ストーンのような人気も実績もあって盤石に思えるような俳優が、ここまでハングリーに役に作品に向き合おうとする姿勢に恐れ入った。だがこのぐらい常に挑戦し攻め続けているからこそ、ここまで生き残れたと言っても良いのかもしれない。とにかくこれは見習うべきことだ。

作品の評価としては、こちらの想像をはるかに超えてくる歪なバランスをもった傑作だった。事前に見ていた予告から全く内容が読み取れず「フランケンシュタインの怪物」的なストーリーなのかなぐらいに思っていたのだが、これがストレートに主人公の成長譚になっているあたりに驚かされた。また過去との決別や自立と言ったテーマも良く、本作は癖の強いヨルゴス・ランティモス作品の中でも入門編として最適なのではないだろうか。

とはいえ、本作は普通の作品ではないので注意が必要になる。グロテスクなシーンや、猥雑なシーンはいつも以上にてんこ盛りで、あまり映画を見慣れていない人が見たら不快感が先に立ってしまう恐れもある。なので人には薦め辛いのだが、それでも僕は本作のような作品こそ、映画館に足を運ぶ意義を感じてしまう。

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