【感想・レビュー】『アメリカン・フィクション』強烈な社会風刺と黒人中産階級のホームドラマ

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本作は苦境に立たされた黒人小説家が、半ば冗談のつもりで黒人のステレオタイプを詰め込んだ小説を執筆し、思いがけない形で名声を得てしまう姿を描いたコメディ・ドラマ。

トロント国際映画祭で最高賞にあたる観客賞を受賞し、第96回アカデミー賞では作品賞ほか5部門にノミネートされた話題作だ。監督はジャーナリストから脚本家に転身し「ウォッチメン」「グッド・プレイス」など人気ドラマを手がけてきたコード・ジェファーソン。初監督作にして堂々たる傑作に仕上がっていた。

元ジャーナリストの監督が手がけているだけあり、本作は白人知識層や現代社会への鋭い皮肉が込められている。文学や映画を通し黒人の苦難や歴史を理解しようとしながらも、その実エンターテイメントとして消費しているだけの社会。“黒人とはこういうものだ”というステレオタイプにしか目と耳を貸さず、それに刺激を求める社会は欺瞞だらけだ。

そんなキレッキレの社会風刺劇である一方、本作はホームドラマとして素晴らしい。今まで家族を蔑ろにしてきた主人公が妹の死、兄弟の確執、母親の認知症などに直面しながら、家族の絆を取り戻していく。

今までの黒人家庭のホームドラマの場合、とかくシリアスなトーンで描かれがちだった。近作だと『ムーンライト』(’16)『WAVES/ウェイブス』(’20)などがそれに当たるのだが、本作のような犯罪や貧困が出て来ない黒人中産階級のホームドラマというのはあまりにも少ない。

もし、本作がアカデミー作品賞を獲れば時代がまた一歩前進するのか、はたまた受賞することそれ自体が皮肉なのか。

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